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バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

≪タイ≫彼女からの手紙

              ≪九月六日≫     -壱-



  深い眠りのせいか、バンコックに到着するのが速かった。


 もうバンコックの街は動き出している。


 スコールが街を襲ったのだろう。


 道路の低い所は水浸し状態。



  バスは水しぶきをあげながら走った。


 バスを降りると、輪タクをつかまえる。


 輪タクも水しぶきをあげながら、バンコック・ステーションへ向けて

走った。


 すぐ左に、タイ大丸が見えた。



  輪タクを降りると、駅の裏にある新華旅社へ向かう。


 ネパールへ発つまでの宿を確保しなくてはいけない。


 朝早いせいか、チェックアウトがまだ済んでおらず、暫く待つように

言われ食堂のイスに腰掛けた。



  正面の古ぼけた階段から、半ズボン姿の毛唐が、汚い格好をし

た女を連れて下りて来るのが見える。


 俺のすぐ横のテーブルまで来ると、朝食を頼んだ。



                 *



  暫く座っていると、15号室へ通された。


 PKハウスの明るさはここにはない。


 ジメジメとした暗さが一日中支配している。


 それでも、客が集まってくるのは安い、とにかく安いのだ。



  部屋に荷物を置き、鍵を掛けて食堂に下りてきて、さっきまで

座っていた所に腰を降ろす。


 朝食は、ハムエッグ。


 ゆっくりと朝食を済ませて、駅の中にある”BANK”で両替を済ま

せた。


 10US$紙幣をバーツに交換する。



  その国のお金を確保すると落ち着く。


 バスに乗り込むと、日本大使館へ向かった。


 少々街外れにあるのがおっくうだったが、日本からの手紙が来ている

かも知れないと思うと、足が速くなる。



  日本大使館のオフィスは開いていた。


 レター・ボックスの中のH、Yのところを見るが、俺宛の手紙は今日

もなかった。


 日本に戻ってから知ることになるのだが、俺がバンコックを去った

後、二通の手紙が届いていたとの事。


 すぐ、バスでUターン。


 タイ大丸の前でバスを降りると、ジュネスと言う喫茶店に入る。


 カレーとコーラ(26バーツ≒390円)を注文。


 一日遅れの日本の新聞を見る。



    ”巨人軍!14連勝ならず!!”



                      *



  ジュネスで軽い食事を済ませた後、タイ大丸の店内を歩き回

り、アート・コーヒーと言う喫茶店で、日本のマンガ本に目を通す。


 コーヒー一杯で、ある程度日本を満喫すると、マレーシア・ホテルに

行き情報収集に時間を割く。


 ロビーには、毛唐やら日本人やら、汚い格好をした旅行者があふれか

えっている。


 白い壁にメモを貼り付けてあるだけの伝言板には、多くの日本文字も

見る事が出来る。



  旅の疲れを癒すにはもってこいの場所だ。


 しかし、昔のマレーシア・ホテルの良さはなくなったと多くの旅行者

は嘆いている。


 名前が売れてくると、ダメになるのは何処の国でも同じ事のようだ。



  PM5時30分、新華社に戻った。


 夕食を取り、シャワーを浴びてベッドに入る。


 静かな深い夜が、辺りを包んでいる。


 タイでの最後の夜になるのだろうか。


 何も知らないネパールのことが気になってくる。



  旅が始まったばかりだと言うのに、ここタイでは贅沢三昧だっ

たような気がする。


 これから先、これだけの贅沢は出来ないだろう。


 ネパールからヨーロッパまで、どんなドラマが俺を待ち受けているの

だろうか。


 誰にも分らない。


 しかし、何となくいけそうだと言う自信は沸いて来ている。


 どんな困難にも乗り切って見せると言う強い信念が、湧きあがって来

るのだ。



                 *



    タイで受け取れなかった、日本の大切な人からの手紙。



        ―To、Mr、Yoshihiko Higashikawa



   c/o、Embasey of Japan
1674、New 

Petchburi Road,


              Bankok10、Thai Land―




 ≪ 拝啓
       

   東川君、とうとう憧れの大地をあなたは今、


       自分の足でしっかりと、踏みしめているのですね。


       私は、美しい絵葉書の中の朝陽を受けて眩しい


       タイの立派な寺院を見つめながら、


       遠い異国の空の下で、迷ったり悩んだりまた、


       感激したり、勇気を奮い起こしながら頑張っている


       あなたを思って、まるで自分のことのように


       胸が熱くなるのを感じています。



      ところで、香港からの便りによると、そちらの女性は


       とても素晴らしい・・・・とか、ましてやタイの女性は


       もっと抜群なんでしょうね。


       リュック?降ろしてしまってタイに永住しようなんて


       あなたが本気で思ったりしているんじゃないかと・・・


       ちょっぴり心配だなァ。



       しかも香港とちがって食事もタイでは、日本人好み

だというし・・・。


       (お母さんにお知らせしとく方が良いかしら

ね・・・・・!?!)


       でも一日に千五百円くらいで寝泊りしながらやって行け

るなんてすごいですね。あなたも節約に努力しているん

でしょうけどでも池田辺りの古い旅館でも素泊まりだけ

で二千円を越すって言うのにね・・・・・・・・。



     私も物価高の日本なんか捨てちゃって、タイの人にでも


       なろうかしら・・・・でも女性は世界一らしいけど


       男性の方はどうなのかな?その情報を入れてくださらぬ

とは、あなたもチョッピリ意地悪ですョ。


       けど昔は外人に憧れた事もあるけどやっぱり私、


       日本人がいいな・・・・・て信じ込んでいるんです。



     だからあなたも、日本男児の代表として恥ずかしくない

よう立派に旅行を敢行してくださいね。(フフ…余計な心

         配かな・・・  だったらゴメンね。)


      出発の日から、もうじき一ヶ月が来ようとしているけれど


       私の心配も、あなたからの手紙や絵葉書の到着につれて


       大分和らいできました。とにかく、病気にかからないよ

         うに頑張って下さいね。そして、英語の力をバッチリつ

         けて日本に帰って来たら、私を羨ましがらせてくださ

         い。


        九月の声とともに日本では、もう朝夕にコウロギ

         の鳴き声が聞き取れる程に、涼しくなりました。私の自

         動車免許も九月中には、もらえるだろうと計画していま

         すがどうなることかしら?十月には、O君や、急に取り

         やめたので消しますが、結婚式を挙げるようです。私も

         来年の秋頃には是非なんて決意も新たですが・・・・そ

         の方もどうなりますことか???



    でもあなたは、せっかくこの狭い日本や人間関係の中から


      逃れて自由な身の上なのですから、せいぜいその目や足で


      地球の広さ、人類の多様さ、文化の違いなどを感じ取って


       来て下さいね。目的地のギリシャまでは、これから約三

       ヶ月―まだまだ長い道中だけど、今の調子で元気に頑張って


       旅していってくださいね。



     インドの大使館で待つ私の手紙が、必ず元気なあなたの

       手に渡ることが出来るよう、日本の秋空の下で祈っていま

       す。


       地球は丸く、大地は何処までも一つに続いているんだも

       の・・・秋風に誘われてホームシックにかかったりしちゃダ

       メョ!!



        それじゃ、次の手紙で会えるまで!!


       ごきげんよう・・・・・いってらっしゃい!!≫


                         ―K、O、より―



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